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「赤い川の谷間」(上泉康樹)

 

【シーズン終了の報告とお礼】

 

シーズン終了の日は、そのとき突然訪れました。

4年生の引退試合だったはずの、中国大学サッカーリーグ1部最終節は、広島大学内で新型コロナウイルス感染者が発生し、大学側がまさかの全課外活動中止を強行させたため、急遽不参加となってしまったからです。

4年生にとって、それは事実上の引退宣告でした。

 

最終順位は、1試合を残して13年ぶりの3位という好成績を収めることができましたが、最終節に勝てば11年ぶりの準優勝の可能性もありました。引退試合で初めてトップチームの試合に出場予定だった4年生だけでなく、普段からトップチームに出場している4年生にとっても、最後の最後に大変悔いの残る終わり方が待っていました。

誰も何も責めることのできない、この突然の幕引きには、強い憤りと、4年生への惻隠の情を感じざるを得ません。

 

今シーズンのチームスローガンは「疾風(はやて)」。新型コロナウイルスの世界的流行を予感させるような「疾」と、はやきこと「風」のごとく過ぎ去っていった2020年を、まさに暗示していたかのようでした。

ご周知のように、弊部は、今年、新型コロナウイルスの影響で約3ヶ月以上の活動自粛を余儀なくされ、内外の「見えない敵」や「書類の山」と闘い続けてまいりましたが、7月中旬以降は、段階的な練習再開、天皇杯予選、中国大学選手権、Iリーグ、新人戦、県リーグなど、多くの方々のご支援によっておよそ例年通りの活動ができたことにあらためて感謝申し上げます。

 

なお、広島大学では、現在の課外活動中止以前も、練習試合は許可されておらず、グランドをホームゲームで使用することもできませんでした。今年は、広島大学が、他の国立大学と比べても、運動部活動への理解が低いことがコロナによって浮き彫りとなり、スポーツ系教員として私自身も多くの反省すべき点を突きつけられました。

 

しかし、そのなかでも、平成29年度入学の今年の4年生は、ただ真面目で大人しく、突出した選手もいない、リスクも侵せない、まさに「谷間の世代」でしたが、今回のコロナ危機によって、行動力や団結力、サッカーができることを当たり前と思わず、他人に感謝をして一戦一戦を大切に戦うチカラが身についたような気がします。今回のコロナ危機が、逆に、彼らを一気に成長させてくれたのかもしれません。

 

私が4年生に出会ったのは、彼らが1年生の冬、私が新監督になった3年前です。ミーティングでもみんな物静かに座っていて、練習でもあまり自己主張せず黙々と与えられたメニューをこなし、みんなで集まってもなかなか物事を決められない、そんな頼りない学年でした。

 

ただ、あれから思うと、彼らが、毎年毎年私から新たな課題を突きつけられたにも関わらず、素直に理解してチャレンジを続けてきてくれたという部分は、ある意味、彼らの最大の長所だったのかもしれません。こんな私によく3年間もついてきてくれたように思いますし、サッカーIQも、この3年間では最も高い学年でした。

そして、広大サッカー部の失われた10年を、まさに「疾風」のごとく、わずか3年で取り返してくれた4年生に、感謝の念は尽きません。来年は、後輩たちが「疾風」を「旋風」へと変えてくれることを期待しています。

 

4年生のチャレンジのおかげで、静かなる谷間が、大きな山の8合目に変わりました。最後に、彼らへ贈りたいのは、サッカーの応援でよく歌われる『レッドリバー』―「戦士たちよ、俺らの、歌が聞こえるだろ·····」―の原曲として有名な『赤い川の谷間』です。4年生が4年間過ごした「夢グラ」を思い浮かべて歌詞を読んでもらえたらと思います。

 

3位という立派な成績を掲げ、OB・OGにも堂々と胸を張って卒業して、また最も熱い広大サポーターとして、いつでも夢グラに戻って来てください。

「ありがとう」4年生!

 

「赤い川の谷間」

阪田寛夫作詞・アメリカ民謡

 

谷間に咲く ひなぎく

風にそよぐ 朝は

露をうけて かがやく

みどり匂う こみち

ともに語り 遊んだ

谷の奥の 牧場

静かなるレッド リバー バレー

空に光る 雲よ